肛門にできものが・・・”痔”以外の可能性について。
肛門周辺に腫瘍ができてしまった場合、何科に行けばいいの?
肛門や肛門まわりに気になるできものができてしまった場合、「どの科を受診するべきか」、「どのタイミングで行くべきか」という点で悩む方は多いのではないでしょうか?
ふだん人に見せない部分ということもあり、病院に行くことに抵抗を感じている方もいることでしょう。しかし、「痛みが我慢できなくなってから病院に駆け込む…。」できれば、こうした状況におちいるのは避けたいものです。
なぜなら、肛門やその周辺のできものは決して「痔」とは限らず、なかにはがんなど重症化する病気が潜んでいるケースもあるからです。
今回は、気になる肛門や肛門付近のトラブルについて起こりうる病気やその症状を紹介します。
しかし、自己判断は禁物です。痔の市販薬なども多く販売されていますが、痔でない場合にはまったく効かない可能性も。大前提として、肛門部に違和感があれば、まずは肛門科などで医師の診察を受けることを強くおすすめします。
肛門周辺のできもの、必ず痔という訳ではありません。
さて、冒頭でも説明したように、肛門にできものがあるからといって必ずしも痔であるとは限りません。痔以外の病気として考えられるものとしては「肛門周囲膿瘍」が挙げられます。
肛門周囲膿瘍とは、肛門まわりに膿が溜まってしまった状態のことを指します。肛門の内部には肛門小窩(こうもんしょうか)と呼ばれる部分があります。文字どおり、肛門内部に数カ所ある小さなくぼみです。(より専門的な話をすると、肛門小窩は肛門内部にある歯状線に位置しています。)
この肛門小窩に何らかの原因で細菌が入り込み、繁殖すると肛門周囲膿瘍になってしまうと考えられています。
さまざまな原因が指摘されていますが、飲酒などの生活習慣や下痢が長く続いた場合に起こることがあります。また、風邪などの症状や加齢などで抵抗力が弱まってくると、起こりやすくなるとも考えられています。
肛門周囲膿瘍は膿がたまる場所によって、痛みの感じ方が異なります。
浅い部分(外に近い部分)に膿が溜まると、比較的強い痛みがみられ、深い場所にできると腰のあたりにズンとした鈍い痛みを感じることが多いようです。
肛門周囲膿瘍は細菌による感染症が起こっている状態のため、発熱などの症状が現れることもあります。また、病状の進度によっては座った時に痛みが生じたり、排便時にも痛みを感じたりする可能性があります。こうなると、日常生活にも大きな支障をきたすことも。
また、肛門周囲膿瘍を放置しているとますます膿がたまってしまい、肛門の内部に道のような管を形成してしまうこともあります。これがいわゆる「あな痔」(痔瘻)と呼ばれる状態です。
痔瘻も放置したままだと、がん化するリスクが高まります。このように肛門周囲膿瘍が痔やがんのもとになる可能性を考えると、いかに早期での治療が大事かという点がお分かりいただけるのではないでしょうか?
肛門科の検査で肛門周囲膿瘍が認められた場合、手術で膿を取り出したり、抗生剤を投与したりして改善を図ります。
考えられる病気と対処法
先ほど説明した肛門周囲膿瘍。当院では訪れる患者さんの1割ほどが肛門周囲膿瘍と診断されています。とはいえ、決して珍しい病気ではありません。「痔だと思っていたら肛門周囲膿瘍だった」というケースも十分に考えられます。
ほかにも痔と間違われやすい病気はあるのでしょうか?肛門に起こるトラブルで痔以外に起こりうるものをみていきましょう。
・肛門小窩炎(こうもんしょうかえん)・肛門周囲炎(こうもんしゅういえん)
下痢などが原因で皮膚がただれて起こると考えられています。しこりや腫瘍になることはまれですが、かゆみや痛みを伴うことが多いです。
また、汗で蒸れた状態が続くと起こりやすくなるともいわれています。真菌の繁殖などが加わると強いかゆみが起こる可能性があるため、生活習慣の改善や皮膚に塗る薬を投与して改善を図ります。
・膿皮症(のうひしょう)
膿皮症は肛門から離れた臀部(おしり)に起こることが多いといわれています。おしりのほか、首やわきなどに起こることがある感染性の皮膚炎です。
黄色ブドウ球菌や大腸菌などが原因で患部に膿がたまってしまい、赤い発疹のようなものができたり、膿が出てきたりすることがあります。
軽度であれば、皮膚薬を投与して経過を観察しますが、悪化すると手術が必要になることもあるため注意が必要です。
・大腸がん
痔だと思って受診したらがんだったというケースもあります。
また、痔瘻を放置しておくことでがん化する可能性もあるため、肛門にできものができた際は早い段階で治療をおこない、完治後も定期的な検診をおこなうことが推奨されます。
・肌垂(ひすい)
肌垂とは、もともとあった外痔核がしぼんだ跡です。外側の皮膚がたるんでいる状態というとわかりやすいかもしれません。
直接的な害はあまりないのですが、「肌垂が原因でかゆみがおこる」、「見た目が気になるためなくしたい」という際には、切除をおこなうこともあります。
・脂肪腫(しぼうしゅ)
その名のとおり、皮膚下のある脂肪細胞がなんらかの原因で増殖し、おできにように盛り上がった状態です。全身に起こる可能性があります。
いわゆる良性腫瘍のため、健康に悪影響を及ぼす心配はまずありません。しかし、大きくなると見た目も悪くなり、生活に支障が出るため切除手術をおこないます。
・そのほかの病気
肛門周辺に起こりうる病気として粉瘤(ふんりゅう)や、尖形コンジローマと診断されるケースもあります。
粉瘤(アテローム)は一般的に肛門から離れた部位にできることが多く、ぽこっとしたできものが形成されます。このできものは皮脂や垢などが集積してできたものです。
皮膚の下のあたりに袋の形状に近い嚢腫(のうしゅ)ができるため、皮脂や垢がうまく排出されず、溜まってしまうためにおこると考えられています。基本的には患部を切除して原因を取り除きます。
尖形コンジローマは性病の一種。ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因で起こる病気です。おもに性行為などを介して感染することが多く、陰部を中心にカリフラワー状のいぼができるのが特徴です。
痛みをともなうことは非常にまれですが、いぼなどの目に見える症状がないと、気がつくまでに時間がかかるため周りの人に感染させてしまうリスクがあります。
このようにおしりにできものが形成される病気は多く、一概に痔と判断するのは禁物です。次に肛門科ではどのように診察をおこなっているかを紹介します。
腫瘍の見た目や状態から推測できること
肛門にできた腫瘍やできものは、一般の方が判断することは極めて困難です。また、原因が肛門内部にある場合は医療機関で検査をおこなわない限り原因を特定することはできません。
しかし、サインとなる症状(痛み、かゆみ、しこりが大きくなっているなど)には注意を払い、診察時に伝えるようにしてください。
病院では、実際に皮膚の下の腫瘍を取り出し、何の病気かを特定します。そして症状に応じて保存療法をおこなうか、手術での切除をおこなうかを決めます。手術といっても日帰りで済むことが多く、患者さんに大きな負担がかからないように配慮して実施します。
放っておくと高熱が出ることも。早めに病院へ。
今回、説明したようにおしりに現れるできものや、そのほかの症状はさまざまな病気のサインである可能性があります。
まずは検査で、実際におしりの状態を診察し、早い段階で治療対応をできるかが鍵となります。気になる症状がある方はまず検査を受けに来てくださいね。